[ハッチポッチ・クリティシズム No.84 ブロマンスで見るアメリカ]
ハッチポッチ・クリティシズム 第84号(2008年07月04日)
発行:佐藤清文(hpcriticism@yahoo.co.jp)
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ブロマンスで見るアメリカ
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中東を旅行すると、男同士で手をつないで歩いていたり、路上で抱き合ったりしている光
景を目にします。しかし、これらは別に深い意味はなく、親愛の情を示す行為です。
最近、アメリカでもこういったボディ・タッチが定着してきました。それだけでなく、歌
や詩を捧げるなんてことも流行しています。そうしているからと言っても、彼らは同性愛
者ではありません。たんなる友情の証なのです。信頼でききる友達とビールでも一杯やる
のとさほど変わりません。
こうした男同士の親愛の情を確認し合うことを「ブラザー・ロマンス(Brother Romance)」、
略して「ブロマンス(Bromance)」と呼ばれています。女性たちもブロマンスには抵抗間が
ないようです。女同士がしていたことを男性たちもとりいれたという程度です。
このブロマンスが最も似合う男とされているのがマット・デイモンです。
マット・デイモンが男同士でハグし合っていたとしても、同性愛という印象がなく、友情
からそうしているのだろうと感じます。ブラッド・ピットでは現実感がありませんし、リ
チャード・ギアなら、「噂は本当だったか」と思われてしまいます。また、ハリソン・フォ
ードでは下心があるなと疑いたくなりますし、ショーン・ペンでは「後から何かあるぞ」
と怖くなってしまいます。
マット・デイモンは、考えてみると、不思議な俳優です。特別にハンサムというわけでも
ありませんが、不細工でもありません。また、悪人という感じもしませんが、とびきりの
善人という印象もありません。平均的な普通のアメリカ人としか言いようがありません。
もちろん、個々のアメリカ人の平均をとると、マット・デイモンになるというわけでもあ
りません。影が薄いという特性さえないほど、あまりに等身大すぎて、適切な形容が見つ
からないので、そう呼ぶほかないのです。彼のような男性はアメリカのどこにでも、デン
バーだろうと、マイアミだろうと、グリーンビルだろうと、いそうです。『オーシャンズ12』
の撮影の際に、イタリアの町を歩いていても誰にも気がつかなかったというエピソードも
納得できます。はっきり言って、マット・デイモンには色がないのです。そんなアイデン
ティティの希薄な彼だからこそ、『ボーン・アイデンティティ』のような映画があっている
のでしょう。
ブロマンスをしていても、特別の主張のない雰囲気の人物ですから、深い意味などなく、
ただの行為としかならないのです。そんなマット・デイモンですが、『ピープル』誌から2007
年に最もセクシーな男性に選ばれています。「メトロ・セクシャル(Metro Sexual)」、すなわ
ち都会的セクシーと評されているのです。
この風潮は興味深いものです。従来、セクシーと言えば、強い魅力を発散している人物に
対して感じるものでした、クラーク・ゲーブルには、男の色気など強烈な意味を持った存
在感がありました。ところが、街中を歩いていても気づかれない意味の希薄な人物、オー
ラのない軽い人物がセクシーだと見られているのです。
なお、アメリカにおける自己主張というのは、日本ではしばしば誤解されていますが、自
分の考えを発することではありません。投資先としていかに自分が有望であるかというニ
ュアンスがあります。自分を表わすと言うよりも、相手を動かすために主張するのです。
アメリカン・キャピタリズムの認識を欠いて、自己主張を肯定しても否定しても、的外れ
の議論にしかなりません。
おそらく、ブロマンスの流行やマット・デイモンの大ブレークには、今のアメリカ社の空
気が反映しているのでしょう。
アフガン=イラク戦争や環境問題、経済危機などアメリカの置かれている状況は極めて深
刻です。60年代以降では最悪と言って過言ではありません。
60年代、公民権運動の激化やベトナム戦争の泥沼化によってアメリカは分裂寸前にまで至
りました。既存のヒーロー像の権威は失墜し、アンチヒーローがもてはやされました。サ
イモン&ガーファンクルの『アメリカ』が示すように、アメリカを探す旅に出る若者たち
が出現しました。アメリカのアイデンティティを探求したのです。
しかし、今の若者たちはアメリカのアイデンティティを探しに行くことはしません。どこ
かに真のアイデンティティが必ずあるはずだとそんなことをしても仕方がないからです。
ヒーローやアンチヒーローに憧れるのでもなく、身近にいる友人に親愛の情を抱くという
身の丈にあったことを選ぶのです。
人は現実を受け入れるとき、ささやかではあるけれども、確実なものを手に入れるもので
す。それが普通ということでしょう。ブロマンスは、不確実さに溢れている世界で、確か
なものをアメリカの男たちが求めている現われだと言えます。しかし、普通には難しさが
あることも実感せざるを得ないのです。アメリカは、今、等身大が何たるかを受けととめ
ようとしてきているのかもしれません。
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『ハッチポッチ・クリティシズム』で等身大のアメリカに言及した作品
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