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週刊電藝 (ID:20173)
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週刊で発行している文藝ウェブマガジン。2006年8月現在、通算で370号を超え
るバックナンバーがあります。掲載ジャンルは小説・詩・レビュー・エッセイ
などなど。投稿も受け付けています。メルマガ掲載後はウェブに掲載します。
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毎週月曜発行テキスト 3078無料です
カテゴリ
ジャンルの指定 性別の指定 地域の指定 年代の指定
芸術、文化、芸能 男女問わず 全国版 年齢問わず
 
発行部数の推移 過去10号分
発行回数発行日時発行部数発行部数の推移 ( 右端は50部 )
第174号 2008/04/29 01:39:4025
 
第175号 2008/05/06 01:54:1125
 
第176号 2008/05/12 22:00:2425
 
第177号 2008/05/19 22:00:2726
 
第178号 2008/05/26 22:00:4526
 
第179号 2008/06/02 22:00:2426
 
第180号 2008/06/09 22:00:1327
 
第181号 2008/06/17 02:03:1927
 
第182号 2008/06/24 00:29:5726
 
第183号 2008/06/30 23:19:0127
 
 
バックナンバー 最新号
第183号 2008/06/30 23:19:01 発行
 
週刊電藝467 [080630] マツモト|喜多
 
■□ 週 刊 ■□weekly DENGEI magazine         [ウエブ電藝]
■□ 電 藝 ■□VOL.467   発行数:286 http://indierom.com/dengei/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
┌ H E A D L I N E ────────────── '08年06月30日 ───┐

    古今漫画夢現              : マツモト
    銀幕ナビゲーション           : 喜多匡希

└─────────────────────────────────┘



 古 今 漫 画 夢 現
 こきんまんがゆめうつつ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ マツモト


              『おもいでエマノン』
               梶尾真治×鶴田謙二
              ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ある日、「おもいでエマノン」の紹介をアマゾンで見つけ、その説明をどこ
 まで読んだのかも覚えていないがその夜に夢をみた。
 
 プロテスタント系教会の一角に子どものための遊戯室がある。小さな本棚が
 二段、子供の目の高さに配慮して設えられている。そこに2人の幼い姉妹が
 いた。2人は寄り添って部屋の中央に座り、絵本をよんでいた。

 「君たちは誰?」

 姉と思われる少女が私に説明してくれる。

 「私たちは本から生まれたの。たぶん7歳か30歳。本を読んでくれる人がい
 るたび、私たちは生まれてきた。何度も、何度も、そして今日あなたが私た
 ちをここに生み出してくれた。だからこの世界の出来事の何百年かをこの頭
 に記憶している」

 私は突然の説明に驚き、戸惑った。しかし、2人の可愛らしさに目を引かれ、
 抱きしめようとさえ思った。が…ロリコンだと謗られる姿を想像して踏みと
 どまった。
 
 そして今日、なぜか前の日の夢が忘れられず、『おもいでエマノン』を購入
 する。紹介文はせいぜい、主人公に30億年分の記憶がある、という程度しか
 読んでいなかったはず。実際に読んでみると、何ということもない普通の少
 女は、何億年も生きているのではなく、地球の記憶を、世代を超えて脈々と
 引き継いでいくのである。夢と微妙に似ている。そこまで紹介文読んだ覚え
 はないが… 
 
 ナップザック、粗いセーターにジーンズ、両切りのピースを加えた長い髪の
 エマノンは主人公の前に突然現れる。船旅で出会った、不思議な名前の少女。
 
 梶尾氏の文章だろうか、ナレーションに書き込まれる文章、言葉づかいは美
 しい。丁寧な説明で押しつけがましくなく、詳細でありながらシンプルな表
 現。鶴田氏の絵もまた、エマノンが印象的に描かれている。雪降る夜の寒々
 とした雰囲気と、フェリーの人ごみの雑多さ、食堂のやたらな広がりのなか
 で、彼女はしっかりとそこに居ながらも、どこか消えてしまいそうな予感を
 含みもっている。

 エマノンとはnonameの逆読み、偽名ゆえに何度彼女の名を呼んでも実体とし
 て捉えることが叶わない[→http://kat.cc/30b4cd 『おもいでエマノン』
 p.42、梶尾真治×鶴田謙二、徳間書店]。

 儚さ、というのではない。どちらかというとミステリアスさに通ずる。エロ
 ティックではないのに色気がある。そんな彼女が何気なくよりかかるシーン
 は、ここでは最も彼女を身近に感じる瞬間として描かれる[→http://kat.cc/30a584 
 同p.119 左下コマ]。私としては主人公の男性に肩入れしてしまい、このシ
 ーンにはときめきというよりもむしろ切なさを感じてしまう。フェリーとい
 う、普段では体験しないような、そしてほんのひと時しかあり得ない舞台だ
 からだろうか、エマノンの姿がいっそう際立って魅力を増している。地球の
 思い出として生きるエマノン。彼女はひょっとすると今この世界に息づいて
 いるのではないか…なんてまさか月並みで無責任なことを書く気はないが、
 なぜか懐かしいような甘い感覚が、読んだ後もぼくの頭の中に名残惜しく残
 っている。

 
             ┌─────────────────────
         ◎writer|熊本生まれ。マンガと映画があれば後は何もい
          profile|らないくらいという、身の程知らずの趣味人。
             |いつまでたってもミーハーで集中力がない。映
             |画感想ブログ「じゃあ映画を見にいこう」
             |http://murkha.exblog.jp/があるが、最近は停 
             |滞気味。別サイトでhttp://intro.ne.jp/にも寄
             |稿中だが、こちらも…。
             |
             |[電藝 掲載作品]
             |古今漫画夢現     http://kat.cc/307003
             | 

          :*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*: 
                  ∵



【新作映画おすすめレビュー】
 銀 幕 ナ ビ ゲ ー シ ョ ン
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 喜多匡希

●『蟹工船』を連想させるコーヒー市場の闇
                |
 おいしいコーヒーの真実     | 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  D|原題『BLACK GOLD』
  今、書店では小林多喜二  A|2006年 イギリス/アメリカ 78分 
 の『蟹工船』が平積みとな  T|配給:アップリンク
 っている。プロレタリア文  A|監督:マーク・フランシス&ニック・フラ
 学の代表作として知られる、  |ンシス
 最早、古典と言えるこの小   |
 説が、現在、また大いに売   |【上映スケジュール】
 れているというのだ。なる   |上映中
 ほど、ここで示される劣悪   |東京:アップリンクXにて
 な条件と過酷環境の下で働   |東京:東京都写真美術館にて(7/11まで。
 く労働者の姿が、 <ワーキ   |モーニングショーのみ)
 ング・プア> という言葉が   |7/26(土)〜 大阪:十三第七藝術劇場
 流行語となっている現代に   |8/16(土)〜 兵庫:神戸アートビレッジ
 おいて、再び注目されると   |近日     京都:京都みなみ会館
 いうことはごくごく自然な   |そのほか、全国順次公開予定
 ことのように思える。       |
                |【公式HP】
  そんな中、コーヒー農家   |http://www.uplink.co.jp/oishiicoffee/
 の貧困を描いた『おいしい   |
 コーヒーの真実』というド
 キュメンタリー映画が、現在、東京でヒットしているというのも、これまた
 大いに合点のいくところだ。これから公開となる地域も多いのでご紹介して
 おきたい。
 
  近年、日本の映画興行界で、ドキュメンタリー映画が一つの大きな潮流を
 形作っているが、その中で、昨年末頃から、 <食> を巡る作品がにわかに注
 目を集めるようになってきた。『いのちの食べかた』然り、『食の未来』然
 り、『ハダカの城〜西宮冷蔵・水谷洋一〜』然りである。テレビやラジオ、
 新聞では、 <食> を巡る不祥事が連日報道され、大きな社会問題として関心
 を集めている今、この流れもごくごく自然な流れと言えよう。
 
  その中でも、本作はコーヒーという、飲料として、世界中で親しまれてい
 る <食> に焦点を当てている。
 
  石油に次いで、世界第2位の市場を誇るというコーヒー。しかし、コーヒー
 農家の暮らしは貧困に喘いでいる。世界最高級のコーヒー豆を輸出している
 エチオピアも例外ではなく、子どもを学校に行かせることもままならない。
 いや、そればかりか、時には緊急食料支援を受けなければ生きていけないほ
 どの困窮振りであるというのだから驚いた。そのため、コーヒー栽培を止め、
 麻薬の原料となるチャットという植物の栽培に切り替える農家も多いという
 真実が示された時、日頃、何も考えずにコーヒーを口にしている私は打ちの
 めされてしまった。最高級のコーヒー豆を育てているとなれば、てっきりそ
 の農家は良い暮らしをしているに違いないと思い込んでいたためである。
 
  では、どうしてこのような矛盾が生ずるのであろうか?
 
  そこには、コーヒーの主たる消費国である先進国の利権追及がある。
 
  コーヒー1杯330円として、農家に還元されるのは僅か3〜9円ほど。それを
 下回ることもあるという。これでは、農家が窮するのも無理はない。まさに
 「働けど、働けど、我が暮らし楽にならざり」である。
 
  編集や構成にやや難があり、中盤でやや中だるみする感はあるものの、本
 作が示した真実は胸に突き刺さる。本作が描いているのは、コーヒーをめぐ
 る薀蓄(うんちく)ではない。コーヒーを触媒として、そこに見られる社会
 格差を描いているのだ。それゆえ、コーヒー党の方はもちろんのこと、そう
 でないという方にも是非御覧いただきたい。『蟹工船』で描かれた不当は、
 今尚、見られるのだ。


●7月イチオシ!! 娯楽派は本作を見逃すな!!
                |
      ホット・ファズ  D|
俺たちスーパーポリスメン!  A|原題『HOT FUZZ』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  T|2007年 イギリス/フランス 120分 
 「この映画、面白いよ!」  A|R-15指定作品 配給:ギャガ・コミュニケ
 と聞けば、観たくなるのは   |ーションズ
 当然。それが映画ファンの   |
 性というものだ。少し前に、  |監督:エドガー・ライト
 『靖国 YASUKUNI』を巡っ   |出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロス
 て、 <表現の自由> を守る   |ト、ジム・ブロードベント、パディ・コン
 ための映画上映推進運動が   |シダイン、ティモシー・ダルトン
 巻き起こったことが話題と   |カメオ出演:ケイト・ブランシェット、ピ
 なったが、あれは悲しい。   |ーター・ジャクソン
 どうしてそんな当たり前の   |
 ことを巡って喧々諤々しな   |【上映スケジュール】
 けれならないのか? その   |7/5(土)〜 東京:シネマGAGA!
 点、本作を巡る上映実現運   |7/5(土)〜 神奈川:川崎チネチッタ
 動はすこぶる健全で明るい   |7/5(土)〜 大阪:梅田ブルク7
 話題を振りまいている。     |7/5(土)〜 京都:MOVIX京都
                |そのほか、全国順次公開予定
  2004年、『ショーン・オ   |
 ブ・ザ・デッド』というイ   |【公式HP】
 ギリス映画が映画マニアを   |http://hotfuzz.gyao.jp/
 中心に少し話題となった。   |
 ジョージ・A・ロメロ監督
 の傑作ホラー映画『ゾンビ』にオマージュを捧げたホラー・コメディで、監
 督は新鋭のエドガー・ライト。主演はこれまた新鋭のサイモン・ペッグ。監
 督・主演ともに知名度が低いため、日本では劇場未公開となったが、同年に
 DVDがリリースされ、「面白い!」と評判になったのだ。
 
  そして、同じ監督・主演で新作が発表された。それが本作。ところが、こ
 れまた日本公開の予定が立たず……。そんな折り、輸入版で鑑賞したマニア
 たちの間で「前作を超える面白さ!!」「マジ、ヤベー!!」と大評判に。そし
 て、「配給先が決まってないならば、俺たち映画ファンの手で見つける!!」
 とばかりに公開嘆願の署名運動が始まったのである。発起人は映画ライター
 のわたなべりんたろう氏。御本人が語る通り、これは『ホテル・ルワンダ』
 の公開嘆願運動の成功を真似たもの。けれど、真似でもなんでも良いのだ。
 「面白い映画を観たい!」。純粋で真っ当なこの衝動を、形にしたというこ
 とが重要。かくして、めでたく日本での劇場公開が決まった。配給を引き受
 けたのは、昨年末公開のアメリカン・コメディ作品『俺たちフィギュアスケ
 ーター』をスマッシュ・ヒットさせたギャガ・コミュニケーションズ。
 
  いやあ! これは面白い!!
 
  この痛快な面白さは思わず「バンザーイ!」と叫びたくなるほどだ。こん
 なに面白い作品が、日本未公開に終わろうとしていたとは、ちょっと信じ難
 いほどである。
 
 【ロンドン市警でナンバー・ワンの成績を誇るニコラス・エンジェル巡査が、
 その凄腕を逆に疎まれ、田舎町・サンドフォードに飛ばされてしまう。平和
 ボケした町民。ダラダラと気の抜けた同僚にうんざりするニコラス。何も起
 こらない日常…… そんなある日、不審な死亡事故が1件、また1件と発生。
 その裏に関連性を嗅ぎ付けたニコラスは単独捜査の果てに恐るべき真実を知
 るのだった!!】というストーリーはごくありふれたものだが、料理の仕方が
 抜群に上手い!! 『リーサル・ウエポン』『ダイ・ハード』『ゾンビ』など
 といった、監督が大好きな作品のパロディを存分に盛り込み、映画ファンな
 らば大喝采間違いなしなのだが、本作の素晴らしさは、引用元がわからない
 というライトユーザーでも十二分に楽しめる間口の広さにある。
 
  中盤までのテンポ良いコメディ・センスにクスクスゲラゲラと笑い、クラ
 イマックスでは驚天動地のガン・アクションがスクリーン狭しと大炸裂する。
 こんなに面白い映画、ちょっとない。必見、必見!! 大満足すること請け合
 いだ。


●群を抜く宮迫・麻生の上手さ! これぞキャスティングの妙!!
                |
        純喫茶磯辺  D|
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  A|2008年 日本 113分 配給:ムービーアイ
  昨今、日本映画界で大流  T|・エンタテインメント
 行の <ユル〜いコメディ映  A|
 画> である。この <ユルさ>   |監督:吉田恵輔
 という要素を笑いに取り入   |出演:宮迫博之、仲里依紗、濱田マリ、近
 れた作品群は、特に90年代   |藤春菜、ダンカン、和田聰宏、ミッキー・
 後半の日本映画で一つの大   |カーチス、斎藤洋介、麻生久美子、ほか
 きなムーヴメントとなって   |
 いる感がある。最近だと三   |【上映スケジュール】
 木聡監督の『図鑑に載って   |7/5(土) 〜 東京:テアトル新宿、渋谷
 ない虫』や『転々』のヒッ   |          シネ・アミューズ、
 トが記憶に新しい。荒川良   |          立川シネマシティ、
 々主演作『全然大丈夫』も   |          MOVIX昭島
 忘れられない。公開待機作   |7/12(土)〜 大阪:テアトル梅田、シネ
 では、鮎川誠と堺雅人共演   |          マート心斎橋
 という、もうそれだけでワ   |7/12(土)〜 兵庫:シネカノン神戸
 クワクしてしまう『ジャー   |7/下旬予定  京都:京都シネマ
 ジの二人』なんていう快作   |そのほか、全国同日or順次公開予定
 も。今回御紹介する『純喫   |
 茶磯辺』もそんな一本。『机  |【公式HP】
 のなかみ』で注目を集めた   |http://www.isobe-movie.com/
 新進映画監督の吉田恵輔が、  |
 本作でヒットメーカーへの
 階段をまた一段、その高みへと歩を進めて見せたように思う。
 
  これは快作。小品だが、大いに笑わせながら、ちょっぴりホロリともさせ
 てくれる和製人情喜劇として、おすすめしたい。
 
 【妻と別れて、今は高校生の娘と二人暮らしの中年メタボおやじが、父の死
 によって思わぬ遺産が転がり込み、それを契機に仕事を止めて事業を起こす。
 その事業とは喫茶店経営。なぜ、喫茶店なのか? 「女の子にモテたい!」
 から。その一心のみである…… しかし、やることなすことピントもセンス
 もずれきったこのグウタラおやじ。あらゆる突込みどころに満ちた店をオー
 プンしてしまう。『純喫茶磯辺』。店の名前からして、もうドツボにはまっ
 ているのだが、このおやじは自信満々。一人気を揉む一人娘は、この店で半
 ば無理矢理にアルバイトをさせられる羽目になるのだが……】というストー
 リーがもうすでに笑える。が、こういった笑いが巷に氾濫しているのもまた
 事実で、最早そのプロットだけで楽しめる時代は過ぎ去ったと言って良い。
 吉田恵輔監督の力量は大いに認めるところだが、知名度・興行力の部分では
 まだまだ厳しいというのが実情。
 
  しかし、本作には充分にウリとなるポイントがある。キャスティングの妙
 と、その意表を突くほどの上手さだ。
 
  主演は人気お笑いコンビ・雨上がり決死隊の宮迫博之。本人は「俳優は本
 業じゃない。僕はお笑い芸人ですから、演技にプレッシャーもないし」と謙
 遜するが、『蛇イチゴ』で見せた絶妙な演技派振りと、『下妻物語』で見せ
 た抱腹絶倒のコメディ・リリーフ振りの併せ技を本作で披露。台詞の端々や
 目線の送り方、表情など、至るところで観客を笑わせにかかり、それが百発
 百中という驚天動地の的中率を見せる。
 
  加えて、少し影とクセのあるアルバイト店員役で新境地を開拓する麻生久
 美子が、一見して彼女とはわからないカメレオンのような上手さでキラリと
 光る。
 
  この芸達者な2人に、娘役の仲里依紗が清楚な魅力を振りまいてしっかり対
 抗。
 かくして、互いの持ち味を損なわない絶妙なトライアングルが完成を見た。
 
 これでもう安心。観客はただただスクリーンを見つめて、大いに笑い、時に
 涙し、時にハラハラすれば良いのだ。遊園地のアトラクションを楽しむよう
 な気持ちで、身を任せて楽しんで♪


●「同じことをしていては意味がない」という心意気
                |
        火垂るの墓  D|
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  A|2008年 日本 100分 配給:パル企画
  1988年に『となりのトト  T|
 ロ』と二本立てで公開され  A|監督:日向寺太郎
 た長編アニメーション映画   |出演:吉武怜朗、畠山彩奈、松坂慶子、
 『火垂るの墓』は、 <泣け   |松田聖子、山中聡、池脇千鶴、原田芳雄、
 る戦争映画> として名作の   |長門裕之、ほか
 誉れが高い。公開当時、一   |
 家総出で映画館に出向いた   |【上映スケジュール】
 のを覚えているから、そこ   |7/5〜(土) 東京:岩波ホール
 には、両親の「子どもに見   |8/2〜(土) 大阪:梅田ピカデリー、布
 せたい」という、一種の教   |          施ラインシネマなん
 育的意図が働いていたと思   |          ばパークスシネマ、
 える。筆者と妹にとっては、  |          MOVIX堺
 『となりのトトロ』こそが   |8/2〜(土) 京都:MOVIX京都
 メインという思いがあり、   |8/2〜(土) 兵庫:神戸国際松竹、ワー
 作り手の方々には大変失礼   |          ナー・マイカル・シ
 だが『火垂るの墓』には <添  |          ネマズ加古川(別途
 え物> というイメージがあ   |          上映会あり。HP確認
 ったものだ。しかし、鑑賞   |          下さい)
 中から滂沱の涙。結果、こ   |そのほか、全国順次公開予定
 の2本立ては両A面と言え   |
 る充実したものとして記憶   |【公式HP】
 している。その素晴らしさ   |http://www.hotarunohaka.jp/
 を証明するように、両作品   |
 はビデオ・DVD市場においてもロングセラーとなり、TVでも度々放映され、
 新しいファンを獲得し続けている。

 
  あれから20年経った。公開当時、親に連れられて観に行った世代が、今や
 親の世代に成長している。そんな中、『火垂るの墓』は2005年にTVドラマ
 化もされた。そして今、また新たに実写映画化。
 
  正直に言って、当初、この実写映画化に筆者は懐疑的であった。すこぶる
 評価の高い名作が既に存在するというのに、なぜ、今、わざわざ再映画化す
 る必要があるのだろうか? アニメーションと実写という違いこそあれ、到
 底必要な作業とは思えない。しかし、結果を先に言ってしまえば、これはま
 ったくもって筆者の不明によるキメツケ(偏見)に他ならなかったのである。
 
 
  本作は、2006年に亡くなった黒木和雄監督が映画化を準備していた企画だ
 という。その遺志を継いで、長く黒木組の助監督を務めた日向寺太郎監督
 (『誰がために』で監督デビュー。本作が2作目の劇場用長編映画監督作品
 となる)がメガホンを取った。脚本はベテランの西岡琢也が執筆。美術監修
 を日本映画美術界の重鎮・木村威夫が務めるなど、スタッフには黒木組を支
 えた大ベテランの顔も多く見られる。しかし、日向寺監督は当初、この話を
 一度断ったのだという。理由は先述したあまりにも巨大なアニメーション映
 画版の存在。そして、「戦争を知らない世代が、果たして手を出して良いの
 だろうか?」という危惧であったという。この姿勢は、真摯そのもの。当然
 ぶち当たる障壁でもあると思えるが、果たしてその壁と実際に向き合う気概
 のある真摯さを、どれだけの新進監督が有しているであろうか?

  アニメーション版の巨大さや、予想され旧作ファンからのバッシングに怖
 気づくか、職人として(または一種の野心を持って)メガホンを取るかのど
 ちらかに流れることが大半ではないだろうか?

  しかし、日向寺監督はここで懊悩した。ここに観られる一人の作家として
 の心をこそ称えたい。
 
  ここで、木村威夫が日向寺監督の背中を押したという。
 
 【再現しなくていいんだ。表現するんだ】
 
  かくして、ここに、まったく新しい『火垂るの墓』が生まれた。
 
  アニメーション版からも、時には原作の骨格さえも越えた脚色には賛否両
 論あるだろうが、本作にも作り手の真摯な眼差しが宿っており、それゆえに
  <心> がこもった。その <心> の部分に、日向寺監督の現代人=戦争を知ら
 ない世代として受け取ったバトンを、観客に繋げようという願いが見られる。
 その願いを形にしたものが、本作であり、それはやはり再現ではなく、表現
 である。真に伝えるべきは、形ではなく、心であるということを本作は教え
 てくれるだろう。


●全編を貫く緊迫感! グイグイ惹き付けられる快感!!
                |
    クライマーズ・ハイ  D|
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  A|2008年 日本 145分 配給:東映=ギャ
  1985年8月12日。群馬県・  T|ガ・コミュニケーションズ
 御巣鷹山に乗客乗員524名   A|
 を乗せた日航機が墜落した。  |監督:原田眞人
 生存者は僅かに4名。死者    |出演:堤真一、堺雅人、尾野真千子、高嶋
 520名という、航空史上最    |政宏、山崎努、遠藤憲一、田口トモロヲ、
 大にして最悪の大惨事であ   |野波麻帆、西田尚美、小澤征悦ほか
 った。            |
                |【上映スケジュール】
  本作は、このあまりに有   |7/5(土)〜
 名な事故そのものを描いた   |東京:丸の内TOEI 1、渋谷TOEI 1ほか
 作品ではない。未曾有の大   |大阪:梅田ブルク7、なんばパークスシネ
 事件に直面した地元群馬の   |   マ、あべのアポロシネマ8ほか
 地方新聞社・北関東新聞社   |京都:MOVIX京都、TOHOシネマズ二条ほか
 の編集局をメインの舞台に   |兵庫:三宮シネフェニックス、109シネマ
 据え、事故発生から1週間   |   ズHAT神戸ほか
 に渡って報道の最前線の実   |そのほか、全国一斉ロードショー
 像に迫らんとした意欲作で   |
 ある。            |【公式HP】
                |http://climbershigh.gyao.jp/
  原作は横山秀夫の同名ベ   |
 ストセラー小説。原作者自
 身が、事件当時に群馬県の地元新聞社で日航機墜落事故を取材していたとい
 うから、ここには大いにノンフィクションとしてのルポルタージュ的リアリ
 ィが漂っている。
 
  面白い。面白いではないか。
 
  原田眞人監督の演出は、冒頭から、観客をグイグイと惹き付けて止まない。
 その力強さは、全編で2,500以上という膨大なカット数によって、もはや観客
 を引きずり回すといっても過言ではないほど強力なものだ。一言で表現すれ
 ば、力技である。その力技をがっしりと支えているのは、いかにも大作然と
 したスケール感。現代と25年前という2つの時制を往き来するという構成が
 上手く効いている。現代のパートでは、やや衰えた感のある主人公がロック・
 クライミングに挑むという設定。峻険な山肌を捉えた空撮が、大自然の巨大
 さを余すことなく表現し、そのダイナミックで雄大な映像が、スクリーンで
 映画を観ることの至福を存分に味わわせてくれる。一方、25年前のパートで
 は、報道の現場で刻一刻と変わっていく状況に懸命に対応しようとしながら、
 時に振り回されてしまう編集局の人間模様が、緊迫した雰囲気の中で描かれ
 る。ここに見られる群像劇としての面白さは、『金融腐食列島[呪縛]』で社
 会派エンターテインメントのヒット作をモノにした原田監督の面目躍如と言
 えよう。
 
  2時間半近い上映時間を、片時も退屈させない手腕は見事。その半分の尺
 でも退屈してしまう作品が少なからずあるということを考えると、観客にこ
 れだけの緊張と集中力を持続させるのはちょっと凄い。
 
  一方、主題の一つである父と子のドラマが、やや弱いのは惜しいところ。
 旺盛なサービス精神ゆえ、エピソードを盛り込み過ぎた結果、縦糸がもつれ
 てしまったもどかしさはある。しかし、繰り返しになるが、この大作感を劇
 場のスクリーンで味わえるという幸福は捨てがたい。
 
  おそらく、巷では、大熱演の堤真一と、トレードマークである微笑を抑え
 て光る堺雅人に注目が集まるだろうが、本作の群像劇としての面白みを支え
 ている助演陣にも大いに注目していただきたい。『マルサの女』を思わせる
 アクの強さで、劇映画的なケレン味を一身に体現する山崎努や、主演も張れ
 る遠藤憲一や田口トモロヲといった、名の知れた俳優陣も流石だが、でんで
 ん、蛍雪次郎、中村育二といった、日本映画界を縁の下で支えるいぶし銀の
 ベテラン助演陣や、皆川猿時、マギー、堀部圭亮、滝藤賢一といった未来の
 名バイプレイヤー候補たちが、本作の幅をググンと広げているのだ。こうい
 うのをアンサンブル・キャストと呼ぶ。
 
  映画版独自の脚色としては、映画評論家出身の原田眞人らしいオマージュ
 が炸裂。主人公の性格付けに大きな影響を与えている映画として『地獄の英
 雄』(ビリー・ワイルダー監督 1951年)を盛り込んでいるところに、世の
 シネフィルはニンマリすることであろう。
 
  骨太のエンターテインメント作品としておすすめしたい。それにしても、
 今年の日本映画は豊作であるなあ!
 

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         ◎writer|大阪府在住。生まれも育ちも生粋の浪花っ子。
          profile|趣味は読書・プロレス&格闘技観戦・料理、そ
             |してなんと言っても映画鑑賞。映画を観る歓び
             |&語る喜びに加え、最近、広める歓びにも目覚
             |めた。将来の夢は <映画案内人> になること。 
             | 
             |ホームページ
             |[movie masa site 映画に夢を託す]
             |http://homepage2.nifty.com/m-friend/masa.htm
             |メール masa_ginnavi@yahoo.co.jp
             | 
             |[電藝 掲載作品]
             |銀幕ナビゲーション(連載中)
             |           http://kat.cc/30192b
             | 

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