暑い夏、再会〜Tokyo BAR Story
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暑い夏、再会〜Tokyo BAR Story
別れた恋人と、何年何十年ぶりに偶然出会うことがある。
そこから再びつきあいが始まることもあるし、時の経過が
お互い違う世界にいることを思い知ることもある。
1年前につきあっていたオンナ。
私がフラれた。
偶然仕事場で再会した。昼時だったので、近くのファミレス
でランチを食べた。女には新しい恋人がいた。正確に言えば、
別れた直後だった。
オンナが涙を流しながら話す男との別れの理由は、私が懸念
していたとおりだった。彼はオンナに、「癒し」や「やさし
さ」を求めていた。男が家庭に求めるひとつの理想。
しかしオンナが理想とする恋愛関係は、「お互いが刺激しあい、
お互いが尊敬でき、お互いが高まっていく」ことだった。
自分も相手も対等の立場で仕事をし、何ごとにも妥協は許さ
ない。
当然すれ違いが生じ、男はオンナのもとを去って行った。
「彼は、君と共に“生きる”ことできても、共に“暮らす”
ことはできないとわかったんだろうな」
私がそう何気なく呟くと、オンナは驚いたように目を開き、長い
間無言で私を見つめ、そして何も喋らなくなった。
女を近くの駅まで車で送ることにした。
沈黙。
夏の日差しは強く。エアコンがきいた車内でもうっすら汗をかく
くらいだ。
「つきあってる人はいるの?」
オンナがぽつりと言った。
「君と同じで見事にフラれたよ」
「うそ。フラれさせたんでしょ?」
オンナがクスリと笑った。
笑うといい表情だ。しかし意識して好きな男の前では笑えない。
こびることが苦手なのだ。その分、損をする。
「そこまで確信犯じゃないぜ」
「ううん。女はね、一瞬でも男が自分に関心がないと感じるとす
ぅーと愛がさめていくものなの。たとえそれ以外は全部好きで
も。あなたはそれを意識して演じる。」
「傷つくことを思い出にできるほど若くはない」
オンナが再び笑った。
まるでどこかのバーのカウンターで飲んでるようだ。
私は、スロー・テキーラを、オンナは、アンバサダーを飲んで
いるかもしれない。
再び、沈黙。
別れた男女が二人きりになる状況は、なかなかハードなものだ。
いろんな思いが交錯して、かえって寡黙になる。
FMからはスティビー・ワンダーの「STAY GOLD」が流
れている。
あの頃に 時間を戻して
全てが永遠だと思っていた時に
でも 空が移り変わるように
時の中に とどめておけるものはない
ずっと輝くままに
お互いがお互いの「言葉」を探していた。先に口を開いたのは、
オンナの方からだった。
「どこか二人でキスするところに行かない?」
長い沈黙があった。
午後の車の停滞の中、何軒かのホテルの文字が目に止まった。
どちらかにハンドルを切ればこの停滞から抜けるし、女とも抱き
合い、キスができる・・・。
私はゆっくり首を振った。
再び長い沈黙があった。
しばらくして、女がニコッと笑った。それはとても魅力的な笑顔
だった。そしてこう言った。
「今までたくさんの男とつきあってきたけど、みんな男から別れ
を告げてきたわ。さっきの彼氏もね。でもあなたは、私からさ
よならを告げた唯一の男だったな」
「ホメ言葉として記憶しておくよ」
私は笑って答えた。
駅のロータリーで女を降ろし、振り返らないオンナの姿が人ごみ
の中に消えていくのを見て、これで終わったなと思った。
J
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